論考記事

損害保険会社:マネーロンダリング対策の戦略とは?

作成者: ガレス・エヴァンズ|2023/07/28 10:00:00

Gareth Evans は、シフトテクノロジーの英国、アイルランド、北欧担当カスタマー サクセス部門の責任者を務めています

不正資金の洗浄はポップ カルチャーの題材になっており、数多くの犯罪小説、映画、テレビ ドラマに多く見られます。最も基本的なレベルで「マネーロンダリング」とは、違法な活動を通じて得た資金を合法的な資金源に変換することによってその出所を隠蔽する行為をいいます。長年にわたり、銀行業界は、不正に得た利益を合法化しようとする不正行為者の主な標的になっていました。このため、銀行に対する監視が強化され、マネーロンダリング活動を抑えるために一層厳格な規制が導入されました。

当然のことながら、犯罪手段の一つが妨げられれば、犯罪者は別の手段を見つけます。銀行業界がマネーロンダリング対策を厳格化するにつれ、犯罪者は保険業界に目を向けるようになり、生命保険会社が主な標的となっていきました。借入れ可能な終身保険、年金その他の金融商品は、不正資金を洗浄するための新たな機会を提供することになりました。対策として、保険業界は即座に取引の相手方の本人確認を厳密に行い、業界の取引帳簿に関連する潜在的な違法行為の発見を改善する新たな戦略と取り組みを実施しました。こうしたマネーロンダリング対策 (AML) や本人確認 (KYC) プログラムは、システムを悪用しようとする不正行為者から保険会社とその契約者を保護するために役立つセキュリティの層を追加するとともに、コンプライアンスの取り組みに対するサポートにもなりました。

マネーロンダリング対策と本人確認の取り組みが生命保険会社にとって重要である理由は簡単に理解できます。保険会社の商品が、システムを通じて資金を集めるための「簡単な方法」であると見られていることが多いのです。たとえば、違法資金を使って終身保険を購入し、それに基づく借入れを行い、資金洗浄をするということを繰り返します。では、損害保険会社に関しては、どうでしょうか?自動車保険や財物保険はマネーロンダリングの選択肢として有効でしょうか?残念ながら、解答は、間違いなく「イエス」です。損害保険会社は、自社商品が金融犯罪や規制違反の助長のために使用されるリスクを低減する目的で、生命保険会社と同様の予防措置を講じる必要があります。

損害保険を利用してマネーロンダリングをする方法
生命保険契約やその他の保険関連金融商品を用いたマネーロンダリングは単純なもののように思われますが、損害保険の分野ではまったく別のものになる可能性があります。その理由の一部としては、損害保険が提供する補償の種類が多く、そうした保険契約の操作が可能であることによります。

たとえば、住宅保険は、違法資金を使用して購入された物品をカバーするために使用される可能性があります。そうした物品の損失を申告し、それに多少の過大請求を行えば、クリーンな資金が入手できます。不正行為者が不正資金からクリーンな資金を作り出す手段として知られている別のものは、現金 (もちろん不正資金) で車を購入したうえで計画的に全損事故にすることがあります。この二つは、事例の一部にすぎません。あいにく、事例は、これ以外にも数多くあるのです。

保険会社が自社と契約者を保護するための方法
幸いにも、マネーロンダリング対策と本人確認に関しては、保険会社にはさまざまな選択肢がありますし、金融犯罪対策において最も強力な武器の一つは人工知能 (AI) です。保険会社の マネーロンダリング対策と本人確認の取り組みの基盤として AI を使用することのメリットが数多くあります。中でも最も重要な点は、膨大な量のデータを分析したうえで、他の方法では明らかにならないコネクションを見い出すことができることです。これは、取引の相手方の本人確認を厳密に行ううえで非常に役立ちます。AI を使用すると、エンティティ解決を迅速に実行できます。保険契約の申請者が、若干異なる名義で (J.H.Smith と John Smith の違い) 以前取引をしている場合に、そうした人物の中に、その名義の保険契約を利用して詐欺その他の金融犯罪を犯した疑いがある者がいるのかなど。エンティティ解決の対象としての「John Smith」というエンティティについて、外部データベースと照合して、その人物が保険業界が保有するデータベース、金​​融制裁、または重要な公的地位を有する者 (PEP) リストの対象者であるかどうかを判断するのに役立てることもできます。契約者について、実際に総合的な本人確認を実施すれば、保険契約の不正目的への利用が非常に難しくなり、そもそも保険の契約者として適格となるかどうかの違いさえ生じます。

保険契約がすでに発行されている場合であっても、AI を使用すれば、保険契約についての違法目的での使用を示す行為を一層効果的に検知可能です。不審な行動や潜在的な不正 (損失額の過剰請求、損失の偽造など) による請求を分析し、不正ネットワークやその他の犯罪組織の一員であることが判明した人物とのコネクションを見い出すことができるので、これは、潜在的な不正請求が単なる出来心によるものか、それともそれ以上のものなのかを判断する最善の方法の一つになります。

結論
どの保険会社も、契約者が自らの補償範囲を違法目的に利用するという脅れから免かれません。適切なマネーロンダリング対策と本人確認の戦略を導入して、AI によるサポートが受けられれば、損害が発生する前に潜在的に危険な保険契約や契約者を特定できる可能性が大幅に高まります。

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