論考記事

人工知能(AI)の活用による医療機関のSIU強化

作成者: ソロモン・フィリップ|2023/07/28 18:53:00

Solomon Philip は、シフトテクノロジーのマーケット インテリジェンス部門の責任者を務めています。

一般的な詐取・無駄・悪用(FWA)の問題とともに、不適切な支払いの増加が医療保険や医療保険機関が直面する重大な問題になっています。同時に、医療費の支払いの整合性を確保するために必要な調査リソースが不足しています。コストの上昇と労働市場の逼迫により、保険業界で訓練を受けた調査員の人員数が大幅に減少しており、重大なボトルネックが生じています。こうした困難な環境において、相当な規模のペイメント・インテグリティ(支払整合性)チームと保険詐欺特別捜査班 (SIU) チームなしに、医療保険はどのようにして不適切な支払いの対策を行って、規制要件を満たすことができるでしょうか?唯一の答えは、捜査班チームに強力な AI 機能を実装させることです。こうしたテクノロジーを用いれば、医療保険は、限られたリソースの効率性を高めて、不適切な支払いの検知に重点を置くことができるようになります。

当面の問題
SIU は、複雑な医療保険機関エコシステムにおいて不可欠な役割を担っています。実際のところ、SIU/加入者比率の最低基準を義務づけている国や地域もあります。たとえば、NYS OMIG (ニューヨーク州のメディケイド検査総局) で要求されている SIU/加入者比率は「1:60,000」となっています。業界のベスト プラクティスとしては、SIU/加入者比率は「1:100,000」で十分とされています。しかし、過去 5 年~ 10 年の間に SIU チームの人員は削減されており、最大 50% 削減されたというケースもあります。

医療保険のポストペイ(支払後)チームが ROI を示すのに苦労しているため、従来の通念からしても、このような重大な決定を下すことが正当化されるかもしれません。同時に、SIU チームは、州および地方自治体、ホットラインへの情報、コール センター、さらには加入者自身などの内外の情報源から得られる貴重な情報のハブにもなっています。こうした重要な情報源がなければ、不正検知機能とフィードバック ループに影響が生じます。その結果、高コスト環境では競争力のある保険料を設定することがますます困難になっています。

重要なことは、こうしたことがすべて、医療保険の統合が進む中で起こっており、結果として、市場での競争が非常に激しくなり、コストが主な差別化要因となっているということです。そして、誰もがよく知っているように、不正の増加に伴って、コストの懸念が大きくなります。ますます巧妙かつ深刻となる新たな不正に対抗するには、支払前と支払後の双方について不適切支払検知機能を一層堅牢なものにする必要があります。

AI によるコスト最適化
こうした環境においては、ペイメント・インテグリティ(支払整合性)チームと SIU チームの両方のためのツールとリソースに投資することが合理的であることは明らかです。前述したように、支払後リソースに対して必要な投資を行わなければ、支払前機能の停滞も増え、その結果、支払完全性チームの効果が損なわれることになります。効果と影響の低下は、支払後調査から重要な強化学習が得られていないことの直接の結果です。

あいにく、医療保険が、コストを最小限に抑えつつ規制要件を満たすことを目指している場合、無駄のない SIU チームであっても、コスト削減対象とみなしてしまうことがよくあります。ツール、テクノロジー、人材において支払前機能に投資することは、不正を阻止するために不可欠であると考えられています。他方で、この投資にあたって、支払後グループに対する投資やその育成を犠牲することはできません。SIU に対して人材や AI テクノロジーの投資を行うことで、医療保険全体の不正検知機能が強化されます。医療保険がコスト最適化に苦労しているのであれば、AI に注目して、包括的な不正検知機能を開発して、自社の取り組みを次のレベルに引き上げながらも、支払後に関するコスト削減を行っていく必要があります。

SIU がもたらす影響の全体像
医療保険機関における SIU の活動から直接的に高い ROI を示すことは、これまで困難でした。通常、医療保険の報告では、支出額 1 ドルあたり約 5 ~ 10 セントの ROI が得られるとされています。その結果、医療保険が節約しようとする場合に、比較的有益と考える方法で資産を再配分するために、既存の SIU チームからリソースを支払前機能に移すということは理解できます。

しかし、この考え方は非常に短絡的です。SIU によってもたらされる ROI は、テクノロジーに投資しなければ、さらに減少します。他方で、支払後調査の結果によって、支払前に関する支払整合性の取り組みが活性化されます。こうした学習がなければ、支払整合性機能の効果と精度が低下し、請求裁定システムに依存する支払整合性機能のみに特化することになり、プログラムのメリットが限定的になります。支払前機能に関する支払整合性プログラムをサポートする請求裁定システム (CAS) には、支払後チーム/ツールからのリアルタイム/即時インサイト、インテリジェンス、フィードバックの継続的で一貫したフローが必要となりますが、こうしたフローは、SIU にリソースとツールを投資しないと停滞してしまいます。基本的なルールベースの支払前検知に依存していると、最も複雑な不正を見逃す可能性が大幅に高まりますし、規制当局は不正を見逃した場合に罰金を課す可能性があるので、医療保険機関の全体的なコストが増加することになります。支払前に関する決定の迅速かつ正確な実施に対して、追加の圧力を加えているのが、SIU チームによる所定期限内での支払い解除を義務づけている「即時払い」法です。医療保険のブランドに対してこうした財務上、評判上の影響があることで、政府、医療提供者、企業との間で契約を締結する交渉力が著しく損なわれます。さらに、ブランドの評判が低下すれば、医療保険として、医療提供者による優れた患者ケアの提供や、医療提供者の疲労軽減を実現できなくなります。

新たな行動方針
医療保険が、ネットワークとコネクションに関するすべての請求を (過去と現在の両方について) 集計して調査すれば、その都度 1 ケースを調査していた場合に見落とされてしまって保険機関が数百万ドルもの損害を被ることになる不正パターン、外れ値、異常値を発見できる可能性が高まります。医療保険では、フォルダー、静的文書、スプレッドシートを使用してケースを管理するのではなく、リアルタイムのコラボレーションを強化し、すべての請求アクティビティと更新を追跡し、冗長タスクや見落とされているタスクを削減するケース ワークフロー ソリューションを実装する必要があります。

支払後機能の結果から強化学習を活用したフィードバック メカニズムを設けることも、堅牢な不正検知戦略の基礎となります。学習内容には、内部調査分析からのインサイトと外部ソースからの情報が含まれている必要があります。こうしたものを提供することは、請求監査人や調査員が膨大な量の複雑な請求を集計し評価するために単純なフラグを探しているだけでは、不可能です。一般的な請求サイクル期間としては、複雑さにもよりますが、平均で 2 週間かかり、数か月かかることもあります。医療保険は、効率と精度を高めるために必要なツール、技術、テクノロジーを備えた効率的な SIU センター オブ エクセレンスを構築する必要があり、他方で、AI を使用して既存のタスクを自動化し、新たな不正に伴う複雑かつ高額なケースを調査するための人材を配置する必要があります。業界のレポートによると、AI/ML を使用すると、一般的な請求サイクル タイムの 50% 短縮も可能です。

AI の役割
それでは、AI は先見性のある医療保険機関における不適切な支払いや不正の検知戦略にどの程度適合するのでしょうか?基本的に、医療保険は、AI を使用すれば、こうした調査プロセスを大幅に削減できます。そのために、組織の「最高の SIU 調査員」の複製を大規模に行うと同時に、品質を向上させ、疑わしい医療提供者、請求、加入者の行動に対する規範的かつ予防的なインサイトを活用していくことになります。AI を使用して SIU リソースを最適化すると、医療保険が SIU/加入者比率 (約1:120,000 ~ 1: 240,000) を下げるのにさらに役立ち、各調査員の影響力を増強できます。AI はアラートやケースの結果から学習していくので、医療の記録や画像を分析して矛盾や異常を検知できるようになります。AI は各アラートについて詳細なリアルタイム説明を提供するため、調査プロセスの時間と冗長性が削減されます。これは、ルールベースのエンジンでは不可能なことです。

チーム メンバー間のオンライン コラボレーションも、請求の調査、支払い、否認を迅速化するうえで重要なことです。医療保険は、AI モデルの検知精度を高めるために、既存の内部/外部データを引き続き使用し、オンライン マップ、さらには一般に利用可能なレビューやソーシャル メディアなどのソースも追加していく必要があります。医療保険会社は、ソーシャル メディアやプロバイダー レビュー プラットフォームで NLP を活用して感情分析や文書分析を行うことで、人間やルール エンジンが見逃してしまう複雑な不正、不審な関係、ネットワークや犯罪組織の検知を行うことができます。SIU が高度な AI を装備すれば、ケースの結果からの強化学習を通じて支払前ワークフロー プロセスを継続的に進化させることができます。支払後機能において適切な AI を使用することで、医療保険は学習内容を支払前モデルにも適用できるようになり、損失発生を回避し、調査期間を短縮し、疑陽性についての支払い額と追跡の手間を削減することができます。

結論
医療保険は AI を利用して支払後 SIU の不正検知機能を開発でき、こうした学習内容は堅牢なペイメント・インテグリティ(支払整合性)チームにとっても基礎となっています。医療保険は、過去と現在のデータ ソースから収集した学習内容を集計して、保険請求の検討を総合的に実施し続ける必要があります。こうした機能を一貫して大規模に複製していくことが、人間やルール エンジンには非常に難しいことが証明されています。最後に、SIU チームを、既存および新規の不正検知を自動化するために必要なツールとテクノロジーを備えたセンター オブ エクセレンスに転換し、こうした機能を保険金請求のライフ サイクル全体にわたってシームレスに普及させることが、医療保険の ROI を即座に実現するための最も効果的な手段の 1 つとなります。

この記事の作成にご協力いただいたシフトの医療チームの皆さんに心から感謝申し上げます。

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