2023年の3月1日、東京虎ノ門ヒルズ5階メインホールにて、Insurtech Connect(以下、ITC)が主催する世界最大級のInsurtechイベントJapan Roadshowが、日本で初めて開催された。弊社からは日本の事業責任者であるディレクターの小出周作が登壇。海外のInsurtechスタートアップ視点での、日本の保険市場や動向などについて、同じく海外のInsurtechである、dacadoo Japanの日本事業責任者の高橋正敏氏と、ディスカッションを行った。イベントの全体像や雰囲気なども含め、レポートする。
日本のInsurtechを加速させ、保険業界をイノベーションする
欧米を中心にグローバルで急速な広まりを見せている、Insurtech市場。実際、関連するInsurtechの技術やサービスを手がけるスタートアップは次々と誕生しており、保険会社への導入が進む。
このようなグローバルのトレンドを受け設立されたのが、本イベントの主催者であるITCだ。保険業界ならびにInsurtechのスタートアップ、さらには関連するテクノロジー企業などが一同に介すカンファレンスを行うことで、関係者同士がまさにコネクト。協業や新たなシナジー、イノベーションが生まれ、業界の勢いをドライブさせていく。
左からPlug and Play JapanのChang Li氏、ITCアジアのGeorge Kesselman氏
ITCはこれまで、ラスベガス、シンガポール、マイアミ、バルセロナなど各地でイベントやカンファレンスを実施。グローバル65カ国以上、延べ3万人以上が参加する賑わいを見せている。
今回、日本の開催においては世界トップレベルのベンチャーキャピタルである、Plug and Playが協力。Plug and Playは2006年にシリコンバレーで創業したアクセラレータであり、スタートアップの支援ならびに、エンタープライズ企業のイノベーション支援を担う。現在、グローバル40カ国で事業を展開しており、日本支社は2017年に設立。まさに、ITCのミッションと重なるといえるだろう。
登壇者の顔ぶれも豪華で多様であった。政府(金融庁)、東京海上ホールディングス、損害保険ジャパン、三井住友海上といった国内のメガ損保から、第一生命ホールディングス、日本生命保険といった生命保険会社、スタンフォード大学のアカデミアン。
さらにはシンガポールのBolttech 社やSasuke Financial Labといった、国内外のInsurtechスタートアップなど。10を超えるプログラムが行われ、「3大損保の責任者が語る『保険の未来像ぶっちゃけトーク』」といったユニークなセッションも行われた。
英語によるプログラムも実施されるなど、まさにグローバルのトレンドを肌身で感じる内容であり、Web3、ブロックチェーン、AI、エンベデッド・インシュアランス(組み込み型保険)、イノベーションとのキーワードが多く聞かれた。
また、Plug and Playのイベントらしく、9社のスタートアップによるピッチも行われ、日本ではまだ少ないと言われるInsurtechスタートアップが今後、増えていく勢いを感じることもできた。
会場に用意された席数はおよそ300であったが、ほぼ満席。立ちながらプログラムやディスカッションに興味深く耳を傾ける参加者も多く、ブレークタイムやプログラム終了後のネットワーキングタイムではICTの狙いどおり、参加者が積極的に交流する姿が見られた。
海外企業よりも日本企業の方が最先端の技術トレンドなどに敏感
ここからは弊社の小出が登壇したプログラムについて紹介する。まずは、両社について。Dacadoo(ダカドゥ)社は2010年にスイスで創業したインシュアテックスタートアップだ。ビッグデータやAIを活用し、保険業界に限らず、リテール、ヘルスケア業界などに大きく2つのソリューションを展開。デジタルヘルス・エンゲージメントプラットフォームソリューションは、保険契約者の健康状態をデジタル化し、ユーザーの健康やウェルネスを実現する。
グローバルにビジネスに展開しており、アジアでは日本のほか、オーストラリアやベトナムにも拠点を持つ。
dacadoo Japanの高橋正敏氏
「創業からすでに13年。これまで多くのデータが蓄積されており、同データを活用することで技術やサービスをさらにより良いものにしていく。現在はそのようなフェーズにあります」(高橋氏)
一方で弊社、Shift Technology(シフトテクノロジー)はフランス発のインシュアテックスタートアップである。最先端のテクノロジーを活用し自動化も含め、保険会社の意思決定のサポートを担う、とのミッションを掲げる。
保険金の不正請求をAIが検出する不正検知ソリューションをコアに、多数のソリューションを手がける。グローバルで120社を超えるクライアントを持つが、中でも最近注力しているのがアメリカだ。実際、アメリカ自動車保険会社のトップ10社のうち6社で、弊社のソリューションが使われている。
グローバルでは現在600名を超えるメンバーがいるが、そのうち約3分の1がデータサイエンティストであること。保険業界に特化した技術やサービスを手がけていることから、業界のドメイン知識が豊富と、小出は自社の強みを紹介した。
グローバルと比較した際の日本の保険会社の特徴を聞くと、両社ともが近しい意見であった。いわゆるステレオタイプ。日本企業はグローバル企業に比べ意思決定が遅かったり、決定が慎重過ぎるとのイメージを持ちがちだが、両者ともが“違う”との印象を語ったからだ。
Shift Technology Japan(日本事業責任者)の小出周作
「日本には2018年から進出していますが、保険会社のお客様と接していると、最先端の技術や新しいソリューションへの感度が高く、グローバルの動向もよく見ているとの印象です。新しいものやサービスを導入したいとの意欲は、グローバルよりもむしろ日本の保険会社さまの方が強いと感じています」(小出)
高橋氏も同様で、新しいソリューションや導入を保険業界の顧客に提案すると、もっとよく話を聞きたい。具体的にどのように活用できるのかと、前のめりで積極的なケースが多いという。
導入以降、ビジネス目線で定量評価を行うことが重要
一方で、課題においても同じく近しい見解であった。グローバル企業はソリューションを導入したら終わりではなく、いかに活用するかに積極的だという。具体的にはモニタリングを定期的に行いKPIを設定、ビジネス目線で定量評価を行う。また、使い勝手の改善点を見つけたら、ベンダーに伝えるなどのアクションを取るが、対して日本企業では、このようなアクションが弱いと2人は口を揃えた。
「ヨーロッパのある企業にチャットボットを導入したのですが、ビジネス目線での効果を測定すると、バリューを生み出していないことが分かりました。結果、チャットボットは使わない、との判断となりました。我々ベンダーにも言えることですが、導入後の評価をしっかりと行うことで、次のさらなる打ち手につながると考えています」(小出)
イノベーションに関するグローバル企業との差異については、日本では個人情報の保護やセキュリティといった観点から、クラウドの導入が遅れていることを小出は指摘した。対して、グローバル企業は当たり前のように導入しているため、ソリューションのパフォーマンスが最大限発揮できている。逆に、日本企業はパフォーマンスに影響を与えることがある、と話した。
高橋氏は、強いリーダーシップを持つ人物が組織にいて、率先してイノベーションを推進していくと、進んでいくとの印象を持っているとの見解を述べた。2人は次のように展望を述べ、セッションを締めた。
「保険会社の方々がヘルスケア領域にも進出している傾向にあるので、同領域においても当社のデジタルプラットフォームを提供していきます。また、保険会社と契約者様のエンゲージメントを高めるサービスにも注力していきます」(高橋氏)
「今後もこれまでと変わらず、保険業界に特化した技術開発やサービスの提供を続けています。日本市場では現在損保4社、生保1社への導入状況ですが、コンサルティングファームやSIベンダーの方々とも協力しながら、より多くのお客様にソリューションを展開していきたいと考えています」(小出)